第11回JGS宝石シンポジウム

第11回JGS宝石シンポジウムでは、特にピジョンブラッドルビー、ロイヤルブルーサファイヤに焦点をあて、業界内で長期にわたり課題とされている「NOMENCLATURE(宝石表記・命名法)」 をテーマとしました。

貴重なサンプルを実際にお手に取ってご覧いただきながら、当協会ニーラム・アラウディーン副理事長がCIBJO(国際貴金属宝飾品連盟)色石委員会部会長として世界的に討議されている主題について意見交換を行い皆様と共に考えました。
またアラウディーン副理事長は、その要点を5、6,7月の3ヶ月に亘るニュースレターにおいて配信しましたので、お読みください。
 → 宝石命名法に対して by N. アラウディーン(和訳:堀内理事)
 → 宝石命名法に対して by N. Alawdeem(the original -English-)

第11回JGS宝石シンポジウム ご報告

会場:
JJA会館 3階 大会議室(日本ジュエリー協会様ビル)
〒110-8626 東京都台東区東上野 2-23-25
日程:
2016年07月20日(水) 12時30分開場 13時開始
 


↓ JGS広報部、藤田理事のレポートを記載します。
開会 13:00
第11回JGSシンポジウムが7月20日、JJA会館にて開催された。今回のテーマの『NOMANCLATURE色石表記・命名法』は、当協会ニーラム・アラウディーン副 理事長がCIBJO(国際貴金属宝飾品連盟)色石委員会部会長として世界的に討議されているものであり、これについて皆様と考えたいと掲げたものである。


MCは堀内理事が務めました。


その中で今回はルビー、サファイアに絞り、「ピジョンブラッド」、「ロイヤルブルー」の呼称とは何かという問題意識のもと、業界各所から35名の参加者が集った。


伊藤理事長からの挨拶


アラウディーン副理事長による講義
伊藤理事長の挨拶の後、JGS副理事長、ニーラム・アラウディーン氏の講義では、JGSニュースレターの5月・6月・7月号で3回に亘り配信された「宝石命名法」の現状についてまとめられた。

業界内では、高品質のルビーとサファイアの色と品質を「ピジョンブラッド」と「ロイヤルブルー」という呼称で表現してきた。この昔からの言い伝えの表現は主観的であり、尺度や基準のない曖昧なものであるが、上質な色・品質・希少性の三要素を持つことをイメージさせ、価値に影響をあたえるものとなっている。生まれたときからこれらの呼称の科学的規格基準が存在しないため、主観的なものであり、想像であると言える。
その色の呼称の科学的規格が未だ存在しないため、海外の鑑別機関は独自の規格を生み出している。販売業者は販売促進を容易にするために、これらの呼称の使用を鑑別書上に求め、品質基準を満たしているかの如く消費者にアピールする。この独善的ともいえる鑑別書 でも消費者が受け取ると、そこに表記されたものは標準化された規格の上にあると信ずることになる。それゆえ、業界内では、宝石の販売強化の一環となるような表記を鑑別書上に求め、鑑別書なくしては価値と美しさを反映させた公正なプライシングができないことさえも起きるようになった。

鑑別書は本来、宝石に科学的なテストを行い、その正体を判別するに至った科学的な要因とデータを報告したものである。すなわち、立証可能な事実と基準のみが明記されているものであるべきである。「ピジョンブラッド」、「ロイヤルブルー」は立証可能な科学的規格基準がない。しかしながらこの科学的根拠を示すことの出来ないものが表記され、その宝石の価値に影響している。この科学的でない部分を表記するのであれば、独自の規格の独自の意見として、業界基準や定義のものと誤解させないよう、本来の鑑別書の部分とは一線を画して表記されるべきである。
講義の後、分科会で参加者は2班に分かれ、標本石の観察を行った。【標本石】は、ルビー20セット以上、サファイア30セット以上のものが、鑑別機関やJGS会員企業から提供されたものである。それぞれが現在海外で発行されている「ピジョンブラッド」、「ロイヤルブルー」、「コーンフラワーブルー」の表記がされた鑑別書付のものと、またカラーチャートとして使われているセットである。

標本石を手に取り、鑑別書の表記内容を確認しながら観察が行われた。「感性の色(心で観ずる色)」と言われる「ピジョンブラッド」と表記されたルビーの多くは高品質の色というよりは黒っぽい赤、茶色い赤との印象をもった参加者は多かったと思う。鑑別機関による独自の基準の観点もあるかも知れない。しかしながら、宝石を観察する環境・光源の違いの説明を受けることにより、会場の蛍光灯の下のみの観察と場合とミャンマーやタイの紫外線の強い自然光の下との違いを想像でき、色の捕らえ方に幅ができたのではないかと思う。
サファイアの標本石では、独自の基準とは言えスリランカ産やマダガスカル産のものに「コーンフラワーブルー」や「ロイヤルブルー」と表記されていて、その色に高品質を感じることのできないものには、「いかがなものか?」という感想を持ったものもあったが、魅入られるほどの「ロイヤルブルー」も観ることができた。いつもながらこの標本石の観察は、参加者が何かを学び取ろうと一番集中力が高まるときである。予定された時間を大幅に延長するのを余儀なくされた熱気であった。
日本国内の主要鑑別機関により構成されている一般社団法人宝石鑑別団体協議会(AGL)では、鑑別書の発行に関する規格により、品質評価の外形化となる可能性のある「ピジョンブラッド」、「ロイヤルブルー」の呼称はしていない。したがって、今回のサンプルは普段ほとんど目にすることのないものを、国際的に著名な鑑別機関のものからそうでないものまでいろいろと、しかも数多く見て比較できた非常に貴重な機会となった。


最後に全体会議で観察結果・所見発表が行われた。今回参加いただいた宝石鑑別団体協議会(AGL)会長は、「ピジョンブラッド、ロイヤルブルー、の呼称を表記することはグレードを表記することとなり、鑑別書ではなくなる。AGLに表記の要望が寄せられているけれども、AGL会員の19社が揃って同じグレードを表記するためには、サンプルの用意とそれぞれの大事にしている基準のすり合わせをしなければならず、莫大な費用がかかる。その費用は誰が払えるのか?というのが、現在はやらない理由である」と現在のスタンスを述べられたのが印象的であった。今回のシンポジウムに参加してそれぞれが、このテーマの理解を深められたと思う。


標本リスト
参加者の声
 
 

標本石を提供いただいた協力社及び会員各社(50音順):
(株)アンブローズ&カンパニー、日独宝石研究所、(株)プリンセス、
(株)モリス、(有)ワイティーストーン

ご協力、ありがとうございました。