JGS宝石勉強会

こちらでは、JGS宝石勉強会 テーマAのご報告をさせていただいております。

「JGS宝石勉強会」についての概要はこちらにてご覧ください。

JGS宝石勉強会 テーマA ご報告

※写真はすべて、クリックしていただくと別ウィンドウで拡大表示されます。
会場:
日本宝飾クラフト学院東京本校
日程:
2013年5月29日(水) 18:00〜20:30
進行:
テーマA 加熱実験
1.
18:00~18:10
自己紹介(参加:16名)
2.
18:10~18:15
テーマの主旨と実験の進め方の説明(JGS役員)
3.
18:15~18:25
4種類の比較石と実験石の回覧
4.
18:25~19:00
加熱実験(アルコールランプ+試験管)
 (1) グリーンベリル
 (2) イエロートパーズ
 (3) アメシスト
 (4) 鉛ガラス混入ルビー(トーチ)
5.
19:00~19:10
4種類の比較石と実験済み石の回覧
6.
19:10~19:20
ルーペまたは顕微鏡による観察
7.
19:20~19:30
コメントの発表
8.
19:30~20:15
ディスカッション
9.
20:15~20:20
総括(JGS役員)
10.
20:20~20:30
アンケート記入、閉会
開会
JGSの諏訪恭一監事の司会で開会。テーマの主旨と実験の進め方を説明しました。
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『今日は加熱実験を行います。グリーンベリル、インペリアルトパーズ、アメシスト、鉛ガラスを混入したルビーを加熱して、実際にどの様に変化するのかを観察します。宝石の加熱とは何なのか、皆さんは既に本で読んだりしてご存知でしょうが、実際に宝石を加熱したことがある方はほとんどいないと思います。加熱処理とはどういうものか、加熱が宝石の処理の基本なので、これを学ぶことがお客様への適切な説明に繋がると思います。』

参加者14名の自己紹介


実験と観察
比較石と実験石の2個がケースに入った4種類の宝石を回覧して、実験前の状態を肉眼やルーペで観察しました。さらに、インクルージョンが入っている宝石は、加熱によってそれがどの様に影響するのか、変化するのかも観察します。また、加熱する時間も重要なポイントです。


始めに試験管に入れたグリーンベリルをアルコールランプで加熱します。アルコールランプの炎は、オレンジ色に見える炎の上部付近の温度が最も高いので、試験管を炎の上部にかざします。タイムキーパーが告げる経過時間を気にしながら、色の変化を観察しました。加熱開始から1分、グリーンベリルに変化が見られ、1分30秒で加熱を止めました。グリーンベリルは青色に変化して、アクアマリンになりました。加熱によって宝石が割れてしまったり、逆に加熱し過ぎると色が薄くなってしまうこともあるそうです。
次はインペリアルトパーズの実験です。加熱し過ぎると色が薄くなる可能性が高いので、色が変化し始めたら加熱を止めて観察することにします。因みに、アルコールランプの炎の温度分布は、炎の先端が630℃、上部のオレンジ色と青色の境界付近が1,040℃、炎の側面が925℃、炎の根本付近が640℃とされます。加熱開始から1分でピンク色に変化しました。
炎に直接かざしているわけではなく、試験管の中で加熱しているので、実際には炎の温度には達していないので、いわゆる低温加熱と称される加熱に相当すると思われます。また、加熱後の色は経年変化しないので、安定しているとされます。低温加熱による処理の痕跡は鑑別機関では看破でないので、日本の鑑別機関では「通常加熱が行われています」という表現に統一されてしまいます。中には加熱されていない石もありますが、区別することは困難です。
3番目の実験はアメシストです。45秒位から色が薄く変化し始め、1分経過すると無色に、1分30秒半で完全に黄色いシトリンになりました。
 
最後は、鉛ガラスを混入したルビーを「火炙り」と称してガストーチで直接加熱する実験です。加熱してしばらくするとルビーが真っ赤になりました。1分経過すると溶け出した鉛ガラスと思われる物質がルビーを置いたロウ付け台に付着しました。取り敢えず1分30秒で加熱を止めて冷却するのを待ちます。観察すると表面がボロボロになっていました。バンコク等で大きなカット石が比較的安い値段で販売されている場合は、鉛ガラスを混入しているものが多いようです。さらに5分加熱してみました。
4分経過すると、ロウ付け台に付着した黒い物質は気化して見えなくなりました。因みにガストーチの燃料はカセットコンロ等に用いるブタンガスで、炎の温度は1,300℃です。5分で加熱を止めて冷却してから回覧します。観察すると、ところどころ白っぽく変色して表面もボロボロです。このルビーは細かいバラバラのルビー(コランダム)を鉛ガラスで整形して大きなカット石に見せ掛けているようです。
意見交換:
全員が観察を終えて、それぞれコメントを発表しました。
  1. 鉛ガラスを混入したルビーは取り扱わないのであまり興味はないが、その他の石は実際に色が変化したので興味深かった。一般的には退色しないとされるが、本当に経年変化しないのかどうか、実験後の石の様子を知りたいと思った。
  2. 鉛ガラスを混入したルビーの製品のサイズ直しは危険だと感じた。グリーンベリル、イエロートパーズは加熱前にクラックが観察されたが、意外に加熱に対する耐久性が高いと感じた。
  3. 加熱によって色が変化したことにより、全く別の石になったので大変興味深かった。本当に退色しないのか、色が元に戻らないのか、退色性についても知りたい。
  4. 鉛ガラスを混入したルビーがボロボロになってしまったことに衝撃を受けた。その他の石は色の変化に驚いた。
  5. 自ら赤外分光光度計(FTIR)で分析することがあるが、データベースがないため判断材料に乏しく不安を感じる。また、大手の鑑別機関でも検査結果が異なる場合があることに違和感を抱いている。
  6. 簡単に手に入るアルコールランプで、しかも1分程度で鮮やかに色が変化したことに感銘を受けた。
  7. 鉛ガラスを混入したルビーが、加熱することによってボロボロになってしまったことに驚きを隠せない。市場で遭遇する可能性の高いルビーなので、混在してしまうと分からないので不安を感じる。
  8. ルビーの実験以外は、今回の加熱は一般的に処理石と称される処理の範疇ではなく、自然に近く天然界でもあり得る加熱なので問題には感じなかった。
  9. 鉛ガラスを含浸したルビーが出始めた頃、研磨業者が研磨したらボロボロになってしまったことがあったが、本当にボロボロになってしまい取り扱うのが怖いと思った。
  10. アルコールランプで見事に色が変化したので、自分でも宝石を加熱してみたいと思った。この程度の加熱は、いわゆるお風呂に浸かった感覚なので、処理という感覚ではない。鉛ガラスを混入したルビーは、警告を発する必要性を感じた。
  11. 色鮮やかに色が変化したことが面白かった。自ら実験しても楽しいし、子供達に見せても楽しいのではないだろうか。
  12. 実際に自ら実験を行って、加熱の過程で透明性が増したこと、冷却する過程の色変化が興味深かった。また、インクルージョンの変化についても興味深く観察してみたが、大きな変化は見られなかった。
  13. 1分少々で色が変化したことは興味深かった。鉛ガラスを混入したルビーは、その流通に警告を要するだろう。
  14. ルビーの流通量の中で、鉛ガラスを混入したものが圧倒的に多いと聞いているので深刻な問題である。もはやルビーとは呼べない代物で、この様な商品を高額で販売したケースもあるとされ、将来に向けて問題を抱えていると言わざるを得ない。
    ここで鉛ガラスを混入したルビーの加熱後の重量を確認したところ、加熱前が2.32ctで加熱後は2.31ctとなり、僅かに減少したものの、大きな変化は見られませんでした。
  15. 原石を焼いて処理する手法は経験的に知ってはいたが、鉛ガラスを混入したルビーの加熱は初めて見て、こんなに変化してしまうのかと驚いた。トルマリンも加熱することがあるが、加熱することによって透明感が強くなることがある。なぜ加熱するのかは、何となくぼやけていたテリが鮮やかになる効果があり、現地では色が変化しなくても、テリを出すために加熱するのが一般的である。ベリルやトパーズは加熱後の色が安定しているので経年変化はしないとされる。
 
更に、参加者同士が質問し合い、自らの経験や知識を披露してより活発なディスカッションが行われました。

その内容はこちらでお読みください。
閉会
最後に伊藤理事長が挨拶を行いました。
「今日はご参加いただきありがとうございました。皆様とご一緒に実験に参加させていただき、加熱による変化を目の当たりにして、貴重なご意見をいただき本当に良かったと思っております。特に、消費者を対象にした「もしもし相談室」のアイディアは、当協会が出来ることがあれば、是非検討したいと考えております。これは当協会の存在意義を示すひとつの方法として、良いアイディアをいただいたと思っております。

一つ一つ知識や情報を身に付けることによって、最終的には消費者の方に正しい情報を美しい宝石と共に与えることができます。その積み重ねが、我々が消費者の方々からの信頼を得て、マーケット全体が活性化することにも繋がると考えております。これを機会に、今後とも是非、当協会のシンポジウムや勉強会にご参加いただきたいと思っております。

最後になりますが、今回の第1回勉強会は諏訪恭一氏に標本石の用意からセッティングまで全てお世話になりました。また、関根理事にもサポートいただき、ありがとうございました。皆様、今日はありがとうございました。」

アンケートへの回答

参加者の皆さんは、まだまだ話が尽きない様子で、閉会後は懇親会に場を移して、夜遅くまで語り合ったようです。 JGSでは、今後も様々のテーマの勉強会を開催いたしますので、皆様のご参加をお待ちいたしております。

*実験用の標本石は、諏訪恭一氏、Constantin Wild氏からのご提供でした。