第1回JGS宝石勉強会

こちらでは、第1回JGS宝石勉強会のご報告をさせていただいております。

「JGS宝石勉強会」についての概要はこちらにてご覧ください。

第1回JGS宝石勉強会での更なる意見交換の様子

意見交換:
  1. 鉛ガラスを混入したルビーの加熱実験を目の当たりにして、市場に流通させてはならない商品だと思った。最近は鑑別で遭遇する機会は少ないが、ビーズ状になっている製品では多く見受けられ、その他の宝石種でもビーズ状になっているものは品質が悪い印象を受ける。
  2. モルガナイトを加熱して、アクアマリンになるという話を聞いたことがあるが、本当だろうかとの質問に対して、グリーンベリルの場合は、加熱することによって緑色をなくして青色にするが、ピンク色のモルガナイトを加熱しても、元々青味を持っていないので、加熱しても青色にはならないだろうとの発言があった。
  3. インペリアルトパーズは綺麗なピンク色になったが、原石の状態で色が変化することが分かるのだろうかとの質問に対して、経験的には加熱によって綺麗なピンク色に変化する色目はあるようだが、原石の場合は全体的に色が一様ではないので、研磨しないと分からない。原石のまま加熱すると破壊してしまうことがあるので、実際には研磨後に内部のインクルージョンやクラックの状態を確認してから加熱するのが一般的である。最近は加熱処理の技術が向上して、単にオーブンの中に入れて加熱するのではなく、砂の中に埋めて空気が対流しない環境で時間を掛けて加熱して、冷却も時間を掛ける方法によって、割れるリスクが軽減されている。最近のパライバトルマリンもこの方法で加熱処理されているようだ。パライバトルマリンが出始めた当初は、まだこの方法が開発されていなかったので、パライバ地方で採掘されたもので、インクルージョンがあるものは加熱しないで市場に流通したものも多く、2~3年はパライバ産の濃い青色のインディゴライトトルマリンが流通していたので、多く取り扱ったことがある。その後、加熱技術が向上して、全て加熱してネオンカラーにするようになったので、パライバ産のインディゴライトのような色のトルマリンは見掛けなくなった。
  4. グリーンサファイアを加熱して色が良くなる石の見分け方があるのだろうかとの質問に対して、加熱することによって色が改善することは極めて少なく、逆に割れてしまうこともあり、加熱することは大きなリスクを伴う。加熱すれば必ずしも色が改善するとは限らないのが実状である。例えば、パライバトルマリンを例に挙げると、加熱する前の紫芋のようなモザンビーク産のトルマリンを加熱したところ、最初は青色を通り越してグレー色になってしまった。そこで、温度が上がり過ぎないようにコントロールして過熱したところ、程よい青色にはなったが、粉々に割れてしまった。つまり、加熱するということは大きなリスクを抱えているので、一概に加熱することが良いとは限らない。タイのトリーターと呼ばれる処理業者は、120年以上の歴史があり、あらゆる宝石に対して加熱の方法はそれぞれ異なるようだ。例えばピンクサファイアであれば1,000℃前後、ブルーサファイアなら1,400~1,500℃まで温度を上げて加熱するが、加熱の方法もバーナーで焼くのではなく、坩堝(るつぼ)と呼ばれるセラミックのポット状のものに入れて蓋をして、長いときは5日間加熱することがある。1日掛けて1,000℃まで加熱して、さらに2日目に1,400~1,500℃まで上昇させて3日間保って、その後4日掛けて常温まで下げるテクニックがある。それは長年の経験から得られたテクニックであり、我々が知り得ないことなので、全て加熱したら色が改善するというような単純なものではない。
  5. 例えば我々がバンコクに買い付けに行って、その中から加熱したら色が改善するだろうと思われる石を見つけ出すことは不可能である。つまり、販売される以前に、加熱等の処理が全て行われてしまっているのが現状である。原石の状態で、色が改善すると判断されたものは、総じてあらゆる方法で処理が行われた後に販売されるので、原石を買い付ける段階から参入しない限り、加熱することによって色が改善する石に遭遇することはあり得ないだろう。
  6. サファイアの加熱に関して、マダガスカルの鉱山を視察した際に、どのような石を加熱して、どのような石を加熱しないのかを調べたところ、共通した特徴があることに気付いた。採掘業者が持ってきたサファイアを見て、どのような石を加熱したら色が改善するのか、見分けられるようになった。インクルージョンの状態によっては割れてしまうリスクはあるが、40キャラットの原石が半分に割れても、小さなカット石を研磨すれば良いので仕方ないだろう。
  7. 加熱することによって色が改善するのかどうか、原石の状態で判断することは可能だろう。これは土壌の性質によるもので、固い岩盤でストレスが掛かって成長したのか否か等の状態によって、ある種の原石は産出する地域によって性質が異なる。どの地域で産出したものが、加熱することによって色が改善する可能性や、元の色がどのように変化するのかどうか等は原石業者が経験的に判断しているようだが、バンコクのマーケットに並んだ段階では、すでにあらゆる加工がなされた状態なので、その段階では加熱によってさらに色の改善を見込んだ買い付けは不可能である。従って、原産地まで行って、採掘している状態から判断する必要があるだろう。
  8. 加熱実験の結果は、色の変化よりも透明性やテリの変化が興味深かった。
  9. 鉛ガラスを混入したルビーの加熱実験の結果から、このような粗悪な商品であるからこそ、JGSが中心となってトレーサビリティの重要性を強く訴えるべきだろう。
  10. かつてベリリウムを拡散したサファイアが出回ったが、これは気化したベリリウムをオレンジサファイアに拡散させて、パパラチャカラーに処理する技法であった。今日の実験ではアルコールランプやバーナーで簡単に加熱したが、実際に宝石の処理を行う現場で、トリーターと称する業者は大変危険を伴う仕事であり、例えば、気化したベリリウムを吸引すると致死率が高く、極めて危険な物質である。鉛ガラスを混入したルビーを加熱したが、鉛も危険な物質であり、トリートメントと称する加熱処理は、危険を伴う加工であることを認識しておく必要がある。
  11. 加熱の話題とは異なるが、チリやトルコ産のコモンオパールを取り扱っていて、このオパールは空気中の水分を吸収したり乾燥させると、重量が10%前後変化することは常識である。研磨する際に水を使うので、必ず研磨中の水分を吸収してしまう。研磨されたオパールは透明な状態で仕上がってくるので、そのまま販売すると重量や見た目が変化してしまうため、シリカゲルを入れた容器に半年間入れて乾燥させてから販売している。オパールは呼吸をして水分を吸ったり吐いたりしているので、お客様には納得した上で購入してもらう必要がある。また、空気中には水分だけではなく、塩素や有機物等の不純物が浮遊しているので、オパールが変色してしまう可能性もある。単に乾燥させるだけではなく、空気中に晒して、変色するものはそれに任せ、これ以上の変化は見られないと判断してから販売しているので、予想以上に手間が掛かった。
  12. 参加者の経験値の高さに驚いている。
  13. 以前にタイのチャンタブリに買い付けに行った際に、ベリリウムサファイアになる前のレディッシュオレンジのサファイアを買って失敗した経験がある。その際に、現地の業者は緑色でも何色でも作り出せると豪語していたが、結果的にそれらは処理石と判断されるとは気付かずに買ってしまったことを思い出した。エチオピアオパールはオパールの斑の変化だけではなく、元は白色だったものがメキシコオパールのような橙色に変化しているものが見受けられる。元々白色のものを販売したのに、ユーザーから再加工で預かった際に、斑が無くなってしまったり、真っ白のものがオレンジ色に変色してしまっているものがあるようなので問題である。
  14. 以前にトルコから製品を輸入した際に、鑑別結果が異なってしまったことがあった。同じ鑑別機関でも結果が異なる場合があり、現在でも鑑別機関ごとに結果が全く異なるケースがあり、なぜこのようなことが起きるのか戸惑っている。
  15. 鑑別機関の技術者の経験の違いによっても、結果が全く異なってしまうことがある。1973年当時にスリランカから輸入したサファイアをスイスのギュベリンに鑑別を依頼したところ、マダガスカル産と判定された。全宝協に依頼したらスリランカ産に、GIAに依頼したらビルマ産と判定された。権威のある鑑別機関であっても、これだけの誤差があるのが実状である。多くの石を、特に良いものを検査した経験がない等、技術者の経験値の違いが異なる結果を招いているようだ。
  16. 同じビルマ産のルビーであっても、多くの異なるデータがあり、必ずしもそれらのデータに合致するとは限らないので、可能性と経験値で判断することもあるようだ。
  17. 産地鑑別は科学的なデータだけで特定することは不可能である。産地鑑別は売り手側の欲目に過ぎない。産地が特定できるのはトレーサビリティだけで、鉱山まで行って、産出している石を買い付けない限り、産地の特定は難しい。
  18. 処理と一口に言っても様々な種類があるので、実際に経年変化してしまうような商品はエンドユーザーに渡ったときにクレームになってしまうので、日本は消費国側という立場からも、新しい石が出たときに飛び付くのではなく、十分に調査してから取り扱うべきだろう。
  19. 紫外線の影響で宝石の色が薄く変化してしまうことがあるのだろうかとの質問に対して、石によって異なり、カラーチェンジタイプのフローライトが青いネオンカラーから薄いグレーに変色したり、クンツァイトは薄くも濃くもならずにスキンカラーに変化した。必ずしも色が良くなる、悪くなるという次元ではなく、石の持っている性質によって変化すると理解したほうが良い。
  20. 日本の夏場に屋外に面したショーケースの中の宝石は紫外線の影響を受けるのだろうかとの質問に対して、大きな影響を受けるので、色が変化してしまう可能性があり、アメシストは白っぽく変色してしまう場合がある。宝石の色は必ずしも不変ではなく、長い時間を掛けて微妙に変化しているものもあれば、短時間で変化するものもあるだろう。
  21. 主観的ではあるが、経験的に加熱して温度を加えることによって色は安定するように思う。逆に未処理で採掘から研磨しただけの宝石は、変化する可能性があるように感じる。加熱したルビーやサファイアが経年変化したということは聞いたことがない。
  22. 甲府のある業者がラベンダーヒスイを大量に販売したところ、7年後に茶色に変色してしまったことがある。当時、全宝協は天然の鑑別結果を出していたが、その業者は販売した責任を認識して、宝石の取り扱いを全てやめてしまった。鑑別機関のオイルが含浸されているとの鑑別結果だけでは不十分で、何が含浸されているのか、経年変化の可能性があるのかどうかを明確にすべきであった。経年変化の可能性を情報開示しないで販売することは極めて無責任である。また、一般的にヒスイは加熱が行われていないと思われているが、赤いヒスイは加熱されている。かなり鮮やかな赤になり、鉄分によって鮮やかな朱色に処理しているようなので、原産地では様々な加工を行っていると思われる。鮮やかな赤いヒスイが大量に出回れば、加熱処理を疑うべきであろう。
  23. 加熱実験に用いた4種類の宝石の中で、質屋の商売で値段が付けられるという意味で興味があるのはルビーだけだが、今日の鉛ガラスを混入したルビーの実験結果や、様々な加熱に関する話題が聞けたので、会社に戻って従業員達にも情報を伝えたいと思う。
  24. 最も興味深かったのは鉛ガラスを混入したルビーで、実際に業者が安いルビーを持ち込んできた際に、なぜ安いのか聞いたところ、鉛ガラスが含浸されているので安価であるとの説明を受けた。実際に、これほど多くの鉛ガラスが含浸されていることが分かったので勉強になった。一般的には鉛ガラスが含浸されていることを情報開示して販売されているようだが、情報開示されずに、あるいは分からずに販売されているものもかなりあるのだろうか。
  25. 先日、8~10カラット相当と思われるルビーのリングのサイズ直しを頼まれた際に、鉛ガラスを含浸していると思われるルビーだったので、いくらで購入したのか聞いたところ、200万円との回答であった。とても200万円の代物ではないと感じたが、この商品のサイズ直しは出来ないと断った。慣れればルーペでも見分けることは可能である。
    諏訪監事:「このタイプのルビーは、国際貴金属宝飾連盟(CIBJO)でも問題視され、「含浸」というレベルを超えているので、「Manufactured / Composite Material or Product」のように、人為的に鉛ガラスの混入が行われていることが明確になるような呼称が検討されています」と述べました。
  26. 鉛ガラスを混入したルビーは、他のルビーと最も異なるのは明らかに経年変化することである。鉛なので酸化してしまう可能性があり、汗や温泉で変色する可能性がある。
  27. 鉛ガラスが表面に露出して部分は、経年変化で白っぽく変色する可能性がある。
  28. 鉛ガラスが含浸されたルビーが8~10年前に出回った際に、処理石と判断されたため流通しなくなった時期があったが、通販会社が取り扱うようになってから流通に歯止めが掛からなくなってしまった。その後問題視されたため、テレビショッピングでは取り扱わないようにはなったが、その間に大量に販売されてしまったことを懸念している。
  29. 鉛ガラスを混入したルビーに関しては、消費者が十分に理解していないので問題である。
  30. 貴重な勉強会に参加できたのでありがたい。実際に見て、皆で感想を述べ合うことは貴重な経験であった。また参加したいと思っている。
  31. ペルーのコモンオパールのピンク色は色が変化しないが、なぜ青色は経年変化で変色してしまうのだろうかとの質問に対して、ピンク色も多少は変化するとの発言があった。
    諏訪監事:「7月に開催するシンポジウムでオパールをテーマに取り上げるので、その時に皆で観察して議論しましょう」と述べました。
  32. 今日は貴重な経験が出来たのでありがたい。さらに勉強を続けたいと思った。
  33. 最も安く手に入る宝石で、加熱して鮮やかに変色するのは何だろうかとの質問に対して、アメシストなら安いのではないかとの発言があった。
  34. 今日は貴重な経験が出来たのでありがたい。異なる意見を聞けたことが良かった。
  35. JGSはさらに面白い勉強会を開催するので、是非参加して欲しい。
  36. 業界団体では個々人の意見が取り上げられないので、様々な意見をJGSに寄せて欲しい。
  37. 鑑別機関ごとに鑑別結果が異なることに困惑している。産地鑑別の結果が異なるのは仕方がないとしても、日常的に鑑別結果が異なる場面が多いので改善を求む。
  38. 今日はとても勉強になった。やはり鑑別機関で結果が異なることに問題を感じている。
  39. 忌憚のない発言が聞けたことは有意義であった。またこのような機会を作って欲しい。
  40. これまで宝石のことを深く勉強した経験がなかったので、大変貴重な経験であった。
  41. 会社の在庫品にアメシストがあるので、参加できなかった社員のためにも加熱実験を再現してみたい。
  42. これまでも処理石や加熱、非加熱のことを消費者に理解してもらうためにアピールしてきたが、孤軍奮闘という感は否めなかった。ところが、今日参加して、多くの宝飾業界の人が処理について真剣に考えていることを知って安心した。例えば「もしもし相談室」のような消費者からの疑問や質問に答えられるような仕組み作りができれば、いい加減な商品や業者を排除することに繋がるのではないだろうか。
  43. 質屋業界では鑑別機関の結果に頼ることが多いので、今日の結果や声を鑑別機関に届けられるような工夫をJGSでも検討して欲しい。
  44. 貴重な話しを聞けたのでありがたい。ほとんど知らないことばかりだったので、次回も参加したい。
  45. 身近な器具を用いて、しかも短時間で加熱による変化が観察できたので、宝石学の授業でも実験を行ってみたい。