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ダイヤモンド価格の現状
日本宝石協会 副理事長 加藤 久雄
少し前の話になりますが、1/21付の読売新聞に「天然ダイヤの価格下落、コスパ重視のZ世代が手ごろな合成ダイヤを購入」という記事が掲載されました。
記事の内容は、「天然ダイヤの価格が2022年比で30%下落し、過去5年で最低水準となった。合成ダイヤの占有率は15年の約1%から24年は20%まで伸びた」と具体的な数字が示されていました。
また、「アメリカでは婚約指輪販売量の4割超を合成ダイヤが占めている。コスパを重視するZ世代が婚約指輪に合成ダイヤを選ぶようになった」ともありました。
果たして実態は記事通りなのか、検証してみました。
まず、ラパポートのRAPNET DIAMOND INDEX が、指標を見るには参考になります。ラパポートでは毎月定期的に指標を発表しており、毎年1月には前年度の指数を公表しています。
指標をみると2023年度と比べ、1ctサイズではこの2年間で30%下落しています。0.30、0.50ctのポインターサイズはそれ以上の下落率です。幸い3ctの大粒は17%程度の減少であり、大粒石の希少性と需要があることが伺えます。
また、今年2月の指標は、ようやく下落が収まりプラスに転じてきました。
この2年間の下落の原因は、記事でもある通りアメリカでの合成ダイヤモンドの需要の増加です。昨年はトランプ関税の影響も受け、アメリカへの天然ダイヤモンドの輸入量は減少傾向にありました。
ウェディング情報サイト「The Knot」が今年2月に発表したレポートでは、調査に参加した消費者の約61%が婚約指輪のセンターストーンに合成石を選び、初めて50%を超えた2024年と比べても大幅に増加しています。婚約指輪に合成ダイヤモンドを購入するカップルの増加は、経済的な実用主義と価値観の変化であり、大粒石を嗜好するアメリカでは顕著に表れています。
一方で、中国でのダイヤモンドの需要の低下も価格下落に拍車をかけています。記事にも中国では婚姻件数が減り、世界全体の12%を占めていた消費が2%に急減したとあります。
こうした中、各鉱山会社は、価格低下に歯止めをかけるべく生産調整に乗り出しています。キンバリープロセスの原石生産量統計データを見るとその傾向が見て取れます。
| サイズ |
2024年 |
2025年 |
2026 FEB |
2年間の下落率 |
| 0.30ct |
-26.2% |
-20.3% |
1.0% |
-41.1% |
| 0.50ct |
-15.1% |
-26.0% |
0.3% |
-37.1% |
| 1ct |
-23.1% |
-9.9% |
-1.3% |
-30.7% |
| 3ct |
-17.1% |
-0.3% |
0.2% |
-17.3% |
| 生産量(CTS) |
| 国 |
2022年 |
2023年 |
2024年 |
| ロシア |
41,923,910 |
37,316,754 |
37,322,793 |
| ボツワナ |
24,509,939 |
25,094,818 |
28,181,710 |
| カナダ |
16,249,217 |
15,980,776 |
13,321,628 |
| アンゴラ |
8,763,309 |
9,754,309 |
14,027,002 |
| 総生産量 |
120,742,978 |
111,522,755 |
117,959,708 |
| 生産金額(US$) |
| 国 |
2022年 |
2023年 |
2024年 |
| ロシア |
3,553,798,950 |
3,606,402,127 |
3,335,490,164 |
| ボツワナ |
4,700,321,539 |
3,283,178,851 |
3,308,086,421 |
| カナダ |
1,877,747,303 |
1,549,505,946 |
1,075,005,840 |
| アンゴラ |
1,965,247,499 |
1,531,977,106 |
1,412,182,462 |
| 総生産金額 |
15,970,412,548 |
12,724,674,673 |
11,482,082,910 |
主要産出国の4か国で8割近いシェアを占め、産出量はほとんど変わっていません。総産出量では、2022年と2024年を比べると2.3%の下落に留まりますが、金額でみると28.1%下落しました。金額を下げることにより、価格維持をしようとする姿が伺えます。
2025年は、各鉱山会社が生産調整を行ったため、大幅に生産量が下落すると見られています。唯一、アンゴラは鉱山開発に力を入れており増産が見込まれています。
一方でこうした、ダイヤモンド需要の低下に危機感を抱く業界団体は、新たな動きを始めました。昨年6月に、各鉱山国や業界団体がデビアスとともに、新たなマーケティングキャンペーンを行うための基金を立ち上げました。ルワンダ協定と呼ばれる合意で、集まった基金は Natural Diamond Council(天然ダイヤモンド協議会)に送られます。
デビアス社は、「オンブレ・デザート・ダイヤモンド」キャンペーンをスタートしました。ブラウンを中心にカラーダイヤモンドの訴求を図るキャンペーンで、ダイヤモンドの持つ独自性と希少性を訴えようとしています。
また、石の原産国と生産履歴を追跡できる「オリジンプログラム」も発表し、商品の差別化を消費者に訴えています。
GIAは、合成ダイヤモンドに関して、従来の4Cでの鑑定は行わず、「プレミアム」と「スタンドード」のみで表示することを発表しました。
CIBJO(世界宝飾品連盟)は「laboratory-grown」「laboratory-created」という用語の使用はやめて、「synthetic」のみを使用することの検討に入りました。
こうした業界団体の動きを見ていますと、当初は合成ダイヤモンドと共生できると思っていた人々が、天然ダイヤモンドの需要の低下を目の当たりにし、共存から差別化に大きく舵を切ったことが見て取れます。
ここで最新のラパポートプライスリストを掲載しておきます。
| 1ctサイズ 100US$ / ct 3/6のリスト |
| |
IF |
VVS1 |
VVS2 |
VS1 |
VS2 |
SI1 |
SI2 |
| D |
160 |
128 |
97 |
83 |
69 |
52 |
41 |
| E |
125 |
111 |
88 |
75 |
62 |
48 |
38 |
| F |
107 |
97 |
80 |
68 |
56 |
45 |
35 |
1ctのDカラー、IFクオリティ、EXTカットでほぼリストプライスと考えると16,000ドルとなり、現状の為替で計算すると、日本円での価格は決して安い金額とは思われません。
日本では二次流通品(還流品)もマーケットに存在しているため、そちらに価格が引っ張られていることもあります。SI2以下のクオリティに関しては、リストプライス以上に需要がないかもしれません。やはり天然でもカットの良い、蛍光性のないルースに魅力が感じられます。
合成ダイヤモンドは、製造技術が進化し、製造競争が激化したことにより、需要を上回る量のルースが市場にあふれ、大幅な価格低下を招きました。そうした価格低下が特に大粒のダイヤモンドの需要を支えていることにもつながっています。
現在では、研磨代を考えるとほぼ底値に近い価格まで下がったため、安定した需要は今後も期待できると思われますが、リセールバリューはないため、消費者がその判断をどのように受け取るかは未知数です。
記事にもありますが、天然ダイヤモンドは当面生産調整を続けながら供給を抑えていく。天然という情緒的価値を訴えながら、より希少なものとして、いずれ価格は上昇するだろうとも書かれています。
ダイヤモンドの需要が将来どのように変わっていくのかはわかりませんが、少なくとも歴史の中で愛され続けてきたダイヤモンドは、これからも魅力的な宝石として存在し続けるでしょう。そこに情緒的価値や財産性を付加していくことが求められています。天然と合成が、それぞれが持つ魅力を尊重しつつ共存していくことを望みます。
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